喜田川守貞が描いた「江戸の鮨」の風情を楽しむ

そもそもは蕎麦を調べたくてたどり着いた、
喜田川守貞謾稿『近世風俗志』。

文化7年6月、大坂の浪華(なにわ)に生まれた守貞さんが、
江戸にきて、大坂と江戸の違いを書き記したもので、
江戸時代の文化を知りたかったら、この本を通らずしては何も得られない、
というくらい?事細かに、当時のことについて書かれている本。

これを読んでいたら、
あらあら、大好きなお鮨のことも書かれているではないですか。


<近世風俗志・一巻293頁>
江戸にても、あるひは童士筥に納れてこれを肩ぎ、あるひは御膳籠等を担ぎ売るもあり。初春には専ら小はだの鮨を呼び売る。…

また江戸にても、原は京坂のごとく筥鮨。近年はこれを廃して握り鮨のみ。握り飯の上に鶏[卵]やき・鮑・まぐろさしみ・海老のそぼろ・小鯛・こはだ・白魚・蛸等を専らとす。その他なほ種々を製す。皆各一種を握り飯上に置く。巻鮨を海苔巻と云ひ、干瓢のみを入る。新生姜・古同[生姜]ともに梅酢につけず、弱蓼と二種をそゆる。…

<近世風俗志・五巻109頁>
江戸、今製は握り鮓なり。鶏卵焼き・車海老・海老そぼろ・白魚・まぐろさしみ・こはだ・あなご甘煮長のまゞなり。

 

天保11年(1840)ころ書かれたもののようだけど、
180年前にはすでに、酢飯の上に具材を乗せる、
現在でも馴染みのある鮨の形になっていたみたいなの。
すごいよね〜!

そして現在、多くの人がこぞってとびつく鮪はシビと呼ばれていて、
この音が「死日」とかぶるため忌み嫌われていて、
「下卑の食として、中以上および餐応にはこれを用ひず」
という扱いをうけていたという。

この鮨のお値段、高騰した時期もあったみたいなんだけど、
1貫およそ4〜5、60文だったみたい。
庶民の中でも貧しい人たちが食べていたというお蕎麦が二八の16文で、
それが庶民の食べ物の中でもとかく安かった、という話みたいだし、
忌み嫌われる鮪を使うくらいだから、
形は近いようなものであっても、
食べ物がもつ印象はまったく違ったんだろうね。

そんなお鮨を揃えたら、
守貞さんのいた時代にタイムスリップして風情だけでも楽しめるかな?
(´-`).。oO

さて、わたしが思い立ったとなると?

えぇ、それこそ品川界隈から日本橋まで、
江戸市中を走り回って材料をかきあつめ、
いっちょやってやりぁしたよ♡

五巻に載っているものまでとなると大変な騒ぎになるので、
ひとまず今回は一巻に載っているもので。

鶏卵焼き・鮑・まぐろさしみ・海老のそぼろ・小鯛・こはだ・白魚・蛸

こうやって具材を並べると、
わくわくするね!!☆

 

鶏卵焼き

どんな玉子焼きにしよう?と悩みつつ、
芝海老のすり身を入れた、伊達巻な玉子焼きにしてみました。

<玉子焼き・材料>
芝海老 150g
たまご 4個
さとう 大さじ4
濃口醤油 小さじ1
だし 大さじ3

芝海老は、まな板の上で叩いてからあたり鉢に入れ、
なめらかなすり身に仕上げます。
そこに、たまごと調味料を合わせ、キメの細かい卵液にします。
玉子焼き鍋に流し入れ、ゆっくりじっくり火を入れていきます。
グリルがあればグリルに入れ、上からも火をいれると、
ミチっとムチっとした玉子焼きができあがります。

将太の寿司を読んでいる方だったら、
あぁ、あれね!と思う…はず?

これをにぎにぎして…

へぇ、鶏卵焼きです。

そうそう、生姜と蓼を添えて。

 

鮑はどうやって食べていたんだろう?
まだ、いまや当たり前にご家庭で作れる氷ですら
「お氷様」と呼ばれるくらいだったらしいので、冷蔵方法なんてものはなく、
生でいただけるほどの衛生管理と保存はなされていなかったと思うの。

そうすると、やっぱり蒸し?…かな?

鮑は、近所のお魚屋さんで。
とても国産の黒鮑とかなんて手がでないので
韓国産で小粒の、とてもお手軽なもの。
先日、うちの道具たちに仲間入りした照宝のせいろで
利尻昆布を上に乗せて、じっくりゆっくり蒸しあげていきます。

柔らかく蒸し上げた鮑を薄切りにし、
お醤油を絡めた肝をあしらってみました。

昔の人も、肝、食べてたのかなぁ?

 

まぐろさしみ

江戸前鮨のまぐろといえば、
濃口醤油に漬けた「づけ」がお馴染みだと思うのだけど
調べてみましたところ、この時代の鮪は「塩漬け」だったみたいなの。

塩漬けの鮪なんて食べたことなかったから、
もう、わくわく!!

うまく漬けられるかわからないけど、
とにかく塩して保存したらいいんでしょ?
と言う感じで、8%ほどの粗塩を振りまいて、
酸化しないように真空パックして冷蔵庫へポイっ。

昔の人は、大きな切り身を塩漬けにして、
周りを削ぎ落として、食していたと思うの。
わたしが仕入れてきたものは、柵。
余すところなく使いたいので、
真空パックというチートアイテムを持ち込んじゃいました♡

へぇ、塩漬けまぐろの握り、です。

…Σ!!
生まぐろより、美味しい!
ちょうどよく水気とヘモグロビンが抜けたのか、
ムッチリ、もっちり、ねっとり。
舌に鮪の旨味が絡みついて、赤身の甘みのダイレクトな猛攻撃。

なんでこれがお鮨屋さんに出ないのかしら?

非常に、いしい!

これをいただけただけで、もう満足…
って、いやいや、まだまだ続きを作り上げねば!

 

海老のそぼろ

でました。
将太の寿司に出てきたお寿司で、食べてみたかった一貫。
どんなストーリーだったか忘れちゃったけど、
そぼろ状のものを握るの?
という、神業な一貫だったんだよね。

<海老のそぼろ・材料>
芝海老 100g
さとう 4g
塩  ひとつまみ
みりん 1cc(チョロっ

頭を取り、殻とワタを取り除いた芝海老を、さっと茹でこぼし、
あたり鉢に入れてすりつぶし、調味料を入れ、すり身に仕立てます。

熱したフライパンに入れ、
乾煎りすればできあがり。

きもちしっとりめで仕上げると、握りやすいのかな?

海老そぼろの握りです。

初めて食べたけど、
おいっしぃぃ〜〜〜♡♡

この海老そぼろがあるだけで、お釜丸ごといただけちゃうくらい!

江戸の人、すごいね。
ただ海老を蒸したり、茹でたりするだけじゃなくて、
こんな風にそぼろに仕立てて、握ってしまうんですもの。

 

小鯛

小鯛は、残念なことにお魚屋さんでみたことがないので、
小鯛といえばな、笹漬けを使うことにしました。

とはいえ、すぐに手に入るものではないので、
日本橋の三越まで足を伸ばして…

当時も、若狭湾から、えっさほっさと、運ばれてきていた。
と、思い込むことにしましょう♡

ん〜〜…!
自分で酢締めしたいッ!

これから、花鯛の季節になるから、小鯛も出てきそうだけど…
いつか、いつか!
生の小鯛を見つけて、自分で〆てみよう。
 

【追記】2021年5月22日
この日、お世話になっている大井町の魚春さんに行ったところ
メインのお魚が並ぶのとは違う場所に、
ピンク色にキラキラと光るお魚が目に留まりまして。

えぇ、みつけました「春子(カスゴ)」。
マダイ、キダイ、チダイの10cmくらいの小鯛を総称した呼び名で
たぶんエラのところに赤い筋があるので
この子はチダイのカスゴかな?と思います。
 

いいサイズでしょ〜?

これを、ちゃきちゃきっと〆まして、
念願の小鯛の握りがつくれました♪

 
やっぱり、自分で作るといいね!
保存を目的としなくていいので酸っぱすぎず、身もしっとり、
さっぱりとした小鯛のお味が純粋に味わえて幸せです♡
 

 

小肌、もとい細魚

この2月の終わりといえば、
春を知らせるコハダも入り始める時期、ではあるのだけど
シケ続きで入ってこないのだそうで。

お店の片隅に匂いを感じて開けてみたらコハダが入っていたんだけど、
すでに買い手がいるんだって。
ちぇっ。

ということで、
同じような光り物で、青魚アレルギーなわたしでも食べられるもの…
綺麗なサヨリがいたので、小肌の代わりにいただいてきました。

これを、サササっとおろして、
軽く〆ます。

好みで言えば、サヨリは生のほうが好きだけれど、
酢締めした奥に、サヨリの香りがふんわり。

江戸の人は、きっともっと酢っぽいものを食べていたんだろうな〜…
なんて思いながら、
生姜をカリっとかじるのです。

 

白魚

白魚は、本当にラッキーだった。
日本橋の三越で小鯛を調達ついでに、
ヒョロヒョロっとした白魚が見えたので、ひとまずお買い上げしたの。
時期とはいえ、なかなか出ないものだから。

その足で、近所のお魚屋さんに行って、
サヨリとかタコを仕入れて、ぼ〜〜っとお会計を待っていたら
ふと冷蔵庫の中にある帆立の板の下に目が留まって。

何やらその隙間から、
たくさんの目がコッチをみてくるの!

これ…、白魚ですよね?

と聞くと、お店のお父さんが、
みつかっちゃったか〜と言わんばかりに渋々と出してくれて。
みたら、型が大きいのなんの!

上が、日本橋で買ってきた茨城県産の白魚。
下が、わたしを見つめてきた体調10cm級の、島根・宍道湖産の白魚。

一板でしか売れないというので、
今度はわたしが渋々とお買い上げ。

それでも、こんな立派な白魚と対峙できることなんて滅多にないし
しかも、失敗できるだけの量がある!

白魚って、きちんと食べたことがないのでよくわからないのだけど、
なんだか「藻」みたいな味と香りがして、
この香りがたまらないのぉ〜〜♡みたいな気分にはなれなかったので、
ひとまず昆布締めしてから蒸してみることに。

絞った布巾で利尻昆布を拭き、
少ししんなりしたところに、白魚を並べ、一晩冷蔵庫で寝かせます。

カワイイ。

昆布の上で一晩寝かせたものを、
みりんを入れて沸かした鍋の上で蒸しあげてみました。

ふっくら、ふわふわ。

これを、「中結 干瓢」とあったので、
干瓢をせっせ炊いて、中結しました…ッ!

これが不思議なの。
白魚だけでいただくと、藻の香りがどうも気になるんだけど、
握り鮨に仕立て上げることで、香りが柔らかくなるというのか
白魚の甘みのほうが立つというのか。

将太の寿司のように、白魚だけで握ってもみたんだけど、
干瓢が白魚を引き立ててくれるのかな?
干瓢があるほうが美味しくて。

白魚を蒸していたか、炊いていたかはわからないけれど、
よく考えられているな〜!
と、改めて「鮨」というものの料理としての完成度の高さに感動。

生み出した人、すごい!

 

最後を〆る一品が、蛸…。
蛸さんとは、対峙する術がないので、
お魚屋さんに置いてあった、地ものの蒸し蛸をいただいてきました。

こぶりだったので、薄く切って2枚づけに。
 

これで、第一巻に書いてあった握り鮨8貫が作り終わり、
すべて揃えると、こんな感じに。

そう、この風景がみたくて。

歪な仕上がりなものの、
このお鮨の向こうに守貞さんがいるようで
感無量。

わたしよりも10歳も若くして、この本を書き残したのだと思うと、
ただただ感服する以外になく、
わたしも、守貞さんのように残せるものを書きたいなぁ…
と、思ういっぽうで、
表現力が乏しい自分にゲンナリ。

でも、どうしてもキャッキャしてしまうのが、わたしだ。

キャッキャしながら鮨を作って、
キャッキャしながら鮨を貪ろうではないか。

 
おーい、おかみさーん!
〆の、海苔巻ちょうだいッ

はいよっ!

白魚を結ぶためだけに炊いた干瓢を、巻き巻きして…。

当時は、巻寿司といえば
「巻鮨を海苔巻と云ひ、干瓢のみを入る。」
だったのだそう。

でも、わさびをタップリ。

 

ごちそうさまでした♡

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